保育園の設計・3
外観デザイン、配置計画は他社によるものだが、平面計画、ファサードデザインも含め当社で総合的な監修を行った。
JR中央線の高架下に位置する特殊な条件のもとで設計することとなった保育園である。
高架柱やそれらに付属する埋設設備を避けながらの計画となるため、要求されたヴォリュームを満たそうとすると、通常の建物にはあり得ない平面形状となる。
その上、高架下であるため、十分な採光を得るには難しい条件にあった。
しかしその特異な条件の中でも通風・採光に富み、利用面でも劣らない計画を実現するため、その特異な条件を逆手にとった設計手法を採用した。
当計画は高架柱のスパンやサイズにより、平面形状が決定される。 その際、高架柱を避けて建物で取り囲むため、中庭のような小空間がスポット的にたくさん生まれる。それら小空間からの自然光の広がりや通風を期待し、全て保育室に隣接させて開放自由な建具で間仕切ることとした。実際、採光、通風において期待以上の効果を発揮し、かつ各保育室のプライベートコートとして、空間的な拡張性をもたらした。視覚的にも奥行き感が生まれ実際の広さよりもより広く感じられる空間となっている。
また、本計画において特徴的な存在が、長い廊下である。
これは、敷地の形状、および高架柱のスパンの影響よって必然的に生まれた空間である。
本来、廊下とは極力距離を短かくすることによって、導線の短縮による利用効率の向上や床面積の節約にも繋がる。
しかし、当計画は廊下を長く取らざるを得ず、この長くなった廊下を本計画の中心的存在に位置づけて、部屋間を繋ぐ通路の役割だけではなく、保育室の延長空間としても積極的に利用できるように「楽しさ」「明るさ」「広さ」の要素を意識してデザインすることとした。
電車の高架下であることに関連づけて、電車車両空間を模した空間「車両廊下」としてアール天井、連続するアール窓を採用している。
それらによって得られた雰囲気は十分で、かつ長い廊下の効果も一役買って、より電車らしい空間が生まれた。
日常体験では得られない空間とすることで、子供たちの好奇心を刺激し、遊びの空間のひとつとして認識させ、空間の積極的利用へと促し、利用効率の向上化に寄与している。
また、エントランスから入るとすぐにその空間が視覚的に飛び込むため、来客者にとっても、その特徴的な「車両廊下」が強く印象に残り、まさに廊下が本園の「顔」としてもその役割を果たすであろう。
スパンの長い建物は長い廊下を有しており、廊下をセンターに居室を左右に配すと、より単調な空間になりがちである。
単調で長い廊下は、時に人の方向観念を混乱させる。
そこで、廊下の窓越しに広がる保育室の壁面を園児の年齢をイメージしたカラークロスで貼り分けることによって、現在地を把握し易くなり、更には単調であった空間にリズムと個性が加わることとなった。