【技術開発室:平間室長】耐震設計の歴史から松本設計の方法を考える

2022.02.10

日本の耐震設計のスタートは、佐野利器博士の震度法で、建物重量に係数をかけて地震力を算出していました。

大正12年の関東大震災の後に、その後の日本の耐震設計をどうするかで有名な柔剛論争というのがありました。


柔は鉄骨構造や五重の塔のことで、剛はRC構造ですが、結局それぞれに良さがあり、地震とは何か、建物の耐震性能とは何かが議論されなかったので決着がつかずに終わりました。

その後、昭和12年棚橋博士が、地震の破壊力は運動エネルギー(最大速度の二乗×重量/2から計算)、建物の耐震性は倒壊するまでの変形と耐力を掛け合わせたエネルギーであると主張しました。

さらにその後、アメリカでハウスナー博士が、地震の入力エネルギーを正確に計算して、設計法を提案し、秋山宏博士が、RC、鉄骨、木造を問わず設計法を構築しました。

免震設計はそれを適用したものになっています。本来の制震の設計も同じですが、木造では制震ダンパの壁倍率だけ使っています。

1981年の新耐震設計で導入された保有耐力設計は、大地震の倒壊から建物を守るため、耐震設計にエネルギーを取り入れて画期的な変化だと言われています。ただし、地震力は水平荷重のままなので、まだ中途半端といわざるをえません。

中小地震でどこも損傷しない設計には、許容応力度設計が適していますが、大地震で倒壊しない設計や診断を行うには、どうしてもエネルギーで考える必要があります。AI耐震診断も倒壊しないところまでで診断しているので、エネルギーを使っています

最後に、松本設計の耐震等級3+制震ダンパーの考え方ですが、理にかなっている設計と私は考えています

理由は、耐震壁を多くするとエネルギー吸収量も増えますが、剛性が大きくなり、固有周期が小さくなります。そうすると、固有周期が小さいほど地震の入力エネルギーも小さくなってくれるので一石二鳥というわけです。

また、大地震が複数来る場合、耐震壁のエネルギー吸収が低下した分を制震ダンパーで補ってくれる。制震ダンパーの数も、所定の量が必要になります。

さらに、柱は最後まで重要な存在です。地震で傾きかけた変形をもとに戻してくれるからです。だいたい耐震壁の剛性の1/8程度あれば良いとされています。隅柱は軸力が大きくなり座屈や引抜が起きるので余裕をもっておくことが必要です。

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